Тоняはまた言い淀み、しばらく迷ったが元通り話し出した。
「次の村にЕляがたどり着いた頃、村人たちは、もう天使が地上にやって来ているということを、風の噂で知っていた。Еляが他の村で村人たちを助けたことを知っていたから、話は早かった。でも……少し問題があった」
「問題?」
「そう。この村の人々は……神に不満を持ってた。『なぜ早く助けに来てくれないんだ』と。『なぜ一番に自分たちの村に来てくれないのか』……ってね。
もちろん、被害の多さで多少の優先順位はあった。けれど、その村の訪問を後にしたのは、村同士の優劣や貴賤が理由じゃない。でも村人たちはそんな不満でいっぱいで、Еляを歓迎しなかった。
それでもЕляは前の村と同じく調査をして、原因が同じことを突き止めて、対処法を伝えた。祈りを捧げてほしいということも。けれど村人たちは、協力しなかった。『天使なら神力でなんでも解決できる』と言って、話もまともに聞こうとしなかった。その村にも魔術や呪術、錬金術に通ずる者はいたが、そういう者すら天使の力は万能だと信じて、言うことを聞いてくれなかったんだ。
結局村の状況は一向に良くならず……仕方なく、Еляは何度も神力で食料を与えた。なのに祈る人はごくわずかで……Еляはどんどん弱っていった」
「愚かだね」
「愚かでしょう。説得しようにもそもそも話を聞かない、腹が減ったら神のせいにする……その繰り返しさ。
そしてЕляの力が弱り切って、1度天界に帰るかと思われた頃……村人たちは最悪の手段に出た。Еляを……天使を、あろうことか『処刑』しようとしたんだ。
神の使いを殺すのは容易ではない。必要な時、必要な場所、必要な道具……それら全てを、村人たちは揃えたんだ。畑を耕すよりもそちらの方が何倍も難しいのに。そもそも『処刑』というのは、天使が道を外れた時のために用意されているもので、それを悪用するなんで発想、ありえないことだ。
呪術師たちが場を用意し、Еляを取り囲んで儀式を始めた。村人たちはその様子を、ただ、眺めていたよ」
「そのせいで、えりゃは記憶とかなくなっちゃったの?」
「いや、記憶と力を失くした直接的な原因ではない。なぜなら村人たちは、Еляを、殺せなかったから」
Тоняは窓の方に体を向けて、カーテンがかかっている外を見た。自分の話だというのに、やけに遠く冷静に、少女は聞いている。
「急ごしらえの呪いでは、Еляを拘束することぐらいしかできなかった。でも、Еляが、天使が、人間に対して失望するのには十分な威力だった。Еляが人間界で天使として働いて、人間に蔑ろにされ、謂れもない罪を着せられたのは、1度や2度じゃない。でも、今までは自らの天使としての未熟さを理由に、人間に大きな罰は科さなかった。Еляは蓄積した人間への憎悪で……村人を皆殺しにしようとした。
しかし、天使が私的な理由で人間を直接殺すことは、許されていない。近くの村の調査をしていた天使が察知して、僕に報告してきた。僕が現場に駆け付けたとき、Еляはその濁った感情をエネルギーに暴走し始めていた……僕は仕方なく、一時的にЕляの力を封じ、眠らせ、保護したんだ……」
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