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  • もじかきくらげ

第5話 自分の話

 すっかり深くなった暗い月の夜、冷えた廊下をパジャマ姿のЕля(エーリャ)が歩いていた。フローリングの上を裸足でペタペタ進み、唯一電気がついている部屋へ向かう。

 開けっぱなしの入り口のふちに手をかけて、寝ぼけ眼をこする。部屋の主のТоня(トーニャ)は、パソコンに向かって仕事のメールを作っている最中だった。

「Еля、目が覚めたのかい?」

「うん、のどかわいてね」

 Тоняはメールを閉じて、Еляを抱き上げ膝の上に乗せる。月のわずかな光がほんの少しカーテンの裏から隠れているのをじいっと眺めて、それから、Еляの頭を撫で、手を握る。

「にいにはお仕事をしてたの?」

「そうだよ。眠れなくてね。何もしないのも暇だから、有意義なことをしようと思って……」

 Еляの小さな手を撫でる。振り向いていた首が痛くなってきて、Еляは顔を前に戻した。

「にいに、お仕事大変?」

「大変だけど、Еляのためだから何ともないよ」

「いつも、お仕事してくれてありがとね」

「いいえ、Еляもいつも家事をしてくれているだろう。おこづかいももらわなくなって」

「だって、にいにに悪いし」

「そんなことない」

 Тоняは自分を気遣う優しい妹に感動して、彼女の体をしっかり抱きしめた。Еляは窮屈そうにしたが、逃げようとはしなかった。

「ねえにいに」

「なんだい?」

「にいには、えりゃのお兄さんなの?」

「そう思うかい?」

 Еляはうーん、と首をかしげて考える。Тоняはその間何も言わずにじっとしていた。どこかを見るわけでもなく、じっとそこにいた。

「それとね、おうちの中に、ずっと使ってない部屋があるでしょ? あそこはにいにのお部屋なの?」

「そのことも知ってるのか。まいったな……」

 ТоняはЕляを膝から降ろし、自分の頬にかかった横髪を避けた。月の光はより弱まってきて、暗めに灯していた部屋の明かりに負けてしまっている。

「Еля、他に聞きたいことはあるのかい?」

「うん、たくさん」

「そうかい。じゃあ全てに答えよう」

 Тоняは愛する妹の、小さな顔を手で包んで、自分の頬をぴったりくっつけ合わせて、終いには椅子から降りて、床に膝をつき、Еляを抱きしめ、肩を撫でてから、向かい合って言う。

「全て、Еляの聞きたいことに答えよう。だから何が聞きたいかきちんと考えてきて。次に準備ができたときに、全部の話をしよう」

「うん、分かった」

 Еляがハグを返し、頬にキスをする。ТоняもЕляの指の先にキスをした。

「じゃあ今日は寝なさい。もうこんな時間だ」

「うん、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 Еляは手を振って、寝室に戻っていく。Тоняもパソコンの電源を消し、すぐに支度をしに別の部屋へと向かった。

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