Тоняを見送ったЕляは、朝食を再開した。
30分ほどかけて食べ終えると、自室に戻って作業机に座る。シャーペンを手に取り何かを書き始めた。
彼女の趣味は、物語を書くことだ。人間界にない魔法や料理、モンスターや種族を考えることが好きなのだ。非常に楽しそうに筆を動かし続ける。らくがき帳にもルーズリーフにも彼女の世界はどんどん広がっていった。
しばらく創作活動を満喫して、ふと時計を見るともう1時間が過ぎようとしていた。大きく伸びをして椅子を降りる。リビングの冷蔵庫を開け、皿に乗った簡単な昼食を電子レンジに入れる。お茶をカップに注いで、温まった皿を取り出す。熱かったので布で包んで食卓に上げる。
スマートフォンをいじりながら少し食べて、やはりお腹がいっぱいだったのかラップをかけなおした。
自室に戻ったЕляは、パソコンをつけて何やら準備を始めた。しばらく確認をして、イヤホンをつけ、何か操作をすると、画面に向かって話し始めた。
それはあなたがよく知った挨拶で、その声は一時間ほど続いた。
話し声が止まってしばらくすると、Еляが部屋から出てきた。ぐーっと体を伸ばして軽くストレッチをする。
おもむろに窓を見るとそこには真っ黒な男が頭を出していた。顔の上半分はペストマスク風の仮面がついており、深く被ったフードの隙間からもっと黒い髪が落ちていた。
Еляは窓に駆け寄り、開けようとしたが、思いとどまってそのまま話しかけた。
「おじさん、こんにちは」
「こんにちは、僕のかわいい天使、Еля」
ガラスの向こうから楽しそうな声が聞こえてくる。尖った爪の黒い手袋が窓をコツコツと叩いた。
「お兄さんはお仕事かね?」
「そう。今日は夕方まで帰らないの」
「そうかいそうかい。それは暇だろう?Изя(いーじゃ)おじさんが相手してあげようね。窓を開けてくれる?」
Изяがギザギザの歯を見せて笑う。しかし、Еляは得意げに胸を張り腰に手を当てて首を横に振った。
「だめです! にいにと約束してるから」
「用心深いねえ、窓くらいいいだろうに。それにねЕля、僕が君に危害を加えたことが一度だってあったかい?」
「それはそれ、にいにとの約束は守らなきゃダメなので!」
完全に拒否されてしまったИзяは泣き真似をするが、Еляには通じなかった。
「じゃあこれから家事かい?」
「うん。お皿を洗うの」
「そうかい。じゃあここで待たせてもらおうかね」
「わかった!にいにが帰ってきたら遊ぼうね」
Еляが手を振ってキッチンの方にへ駆けていったので、Изяは背中に手を振り返し、窓から消えた。
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