Тоняはしばらく何度も口を少し開けてはためらう素振りを見せた。それでもЕляは何も言わず彼の言葉を待ち続けた。
そうして数分の時が経ち、Тоняはようやくしっかりと口を開いた。
「Еляが、人間界を監視する仕事だったってのは言ったね。人間の暮らしを見て、何かあれば駆けつける。そういう仕事だ。Еляは、ある地域を任されていた。あるときその地域で、急に……人間が減り始めた。調査をしたら、『餓死』が多かったんだ。大規模な食糧不足だったんだ。もちろんそのことを調べたのも、僕らから指示を受けたЕляなんだけどね。
こういう時は他でも似たような状況が起こることが多いから、他の地域の天使にも調べさせたら……やっぱり同じ状況が起こり始めていることが分かった。
僕たちと神はこれに対応するため、十分な検討の末『恵みを与える』ことに決めたんだ」
神の御業なのに、『検討』という言葉がつくだけでやけに現実味が出て、Еляは急に神を身近に感じた。
「『恵みを与える』っていう方法はいろいろある。雨を降らせるとか、新しい生命を生み出すとか、食料そのものを与えるとか……けれどやりすぎるといけないから、それは慎重にやり方を決める必要がある。食糧不足の原因がなんなのか分からない状況で、ただ物だけ与えても解決にはならない。むしろ危険だから、より詳しく調査をするべきだと、僕らは考えた。
そうして、原因を調べるため、Еляが人間の土地に降りることになった」
「かなり重要な役割じゃん。天使が人間界に行くってことは、人間に変装していくの?」
「いや、その時は緊急事態だったし、『降臨』したんだ。天使として地上に降り立ち、より早く情報を集めるために信者を作った。まず天使だと証明するために、空から舞い降りて、神々しい光とともに神託を告げる、ってのをやったんだ」
「……やっぱり神の力もそうやって聞くとゲームのスキルみたい……」
「まあ実際大差ないんじゃないかな。地上に降りるときは分かりやすいように、人間のイメージする天使通りに『天使の輪』とか『翼』とかつけて行ったしね。もちろん元々無いわけじゃないし、神から命を与えられた象徴として輪も翼も持ってるんだけど、普段は必要ないから、見た目として見えるようにつけているのは、それこそ本当に人間と会うときだけだったかな……」
やっぱりゲームか演劇かなにかの演出っぽいなと、Еляは神に人間味を感じた。
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